量産可能な物品のデザインを保護する法律として、「意匠法」というものがあります。デザインの保護が目的ですので、勿論出願には図面、写真、CG、見本のいずれかの提出が必要となります。
弊社業務の一つとして意匠出願用のデータ作成を行なっており、その中でご依頼が多いのは圧倒的に図面ですが、意匠写真の作成もある程度の件数があります。
意匠写真のご依頼時には、商品をお預かりして、社内でデジカメ撮影するところから始まりますが、次の点に注意が必要です。
「意匠登録出願等の手続のガイドライン」(平成29年4月 特許庁)からの抜粋
4.1様式及び写真の作成方法
立体的な意匠を表す写真は、正投影図法により各図同一縮尺で撮影した【正面図】、【背面図】、【左側面図】、【右側面図】、【平面図】及び【底面図】を一組として表してください。
この文章の中での「正投影図法」という言葉が重要になってきます。
商業写真などを撮影しているプロカメラマンだと、いわゆる綺麗な写真を撮ってもらえると思いますが、「正投影図法」という条件を満たしていなければならす、これがなかなか難しい部分です。何故なら、正投影という限りは画像に遠近感があってはいけないからです。
ネットショッピングやパンフレットに使われる写真では、不特定多数の人が購買意欲を掻き立てられることが必要ですが、出願用の意匠写真が訴えかける最初の相手は、特許庁の意匠審査官。
ここが決定的な違いです。
今回100円ショップで購入し、弊社オフィスでも使っているパーテーションフックを例にとって考察したいと思います。
幅が一定なので、2次元スケッチして押し出せばいいだけなので、3Dモデルを作るにしても簡単ですね。
Fusion 360で3Dデータを作り、六面図にしてみました。(1図は省略)
簡単に正投影図が出来上がります。
このような単純形状の意匠図面では線図で描くのが普通ですが、敢えて写真を撮ってみます。業務では本来一眼デジカメを使いますが、ブログ用としてコンパクトデジカメでささっと撮影したものですので、あまり綺麗とは言えませんが・・・。
写真だと幅が全く揃っていないのが一目瞭然ですね。また、この画像ではわかりにくいですが、奥行きがあるものは全体にピントを合わせるのが難しいと思います。
このように写真撮影したものをそのまま意匠図面として使う訳にはいきません。
カメラ撮影する以上、遠近感の影響をゼロにすることはできません。
無限に離れた位置から撮影すれば、理論上は遠近感を無くすことはできますが、商品の大きさも無限小になるので実際は不可能。
なるべく離れた位置から望遠レンズで撮影すれば、ある程度パースの効果は減らせますが、ピントが甘くなったり手ブレの影響を受ける為、鮮明な画像を得にくくなります。
弊社では、意匠図面の要件を満たすような手法で撮影した写真を、さらに画像編集ソフトで加工することで、ようやく意匠出願に使える写真が完成します。
また、表面がメッキ処理されていたり、透明・半透明部分があったり、写真では凹凸が判別できないような商品ではさらに加工を追加。
部分意匠の場合、「その他の部分」には別レイヤーを設定し上から赤色等の彩色を施します。
六面図全てのサイズを調整し、出願用フォーマットに合わせて解像度の調整を行なってから納品となります。
意匠写真と言っても、なかなか奥が深い事を感じていただけたでしょうか。
弊社では意匠写真の撮影および編集を行い、出願形式に対応したデータ作成を行っています。詳細・お問い合わせは、特許図面・意匠図面作成のニテコ図研HPから